ロストパラダイス | Young Age Vol.08

公開日: タイ ヤングエイジ

ロストパラダイス

2001年6月26日

サムイ島は、のんびりとした空気が流れる楽園だった。
俺の記憶の中のサムイ島は、確かに楽園だったんだ。

2016年6月28日
ちょうど15年ぶりに訪れたサムイ島は、
思い出のかけらも残っておらず、既に俺の知らない場所となっていた。

トムの宿を探した。
15年前にあったボロいバンガローなどあるはずも無かった。

失われた楽園。
俺のロストパラダイス。

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ロストパラダイス | Young Age Vol.08

コ・サムイ
ここの島には全てがあった。
朝、シャワーの変わりに海で泳ぐ。

ゲストハウスのシャワーは汚かった。
錆ついていて、赤茶の水がドバッと出る。

しかし、オン・ザ・ビーチに立つこの宿は、
目の前にエメラルドグリーンに輝く、美しい海が広がっていた。

トムの宿は快適だった。
サービスと呼べるような品物は、何ひとつ無かったが
さりげない優しさに溢れていた。

同じ宿に住む
ブルースウィリスにのイギリス人も、
米軍上がりのじーさんも、
みんな、のんびりとしたいい人だった。

散歩がてらに町まで歩いて行こうとするとトムの宿にいる女が町まで連れていってくれると言う。
この島の人はみな優しい。

お前、運転できるか?

できるよ、でもライセンスがない。

じゃ、運転しろ

彼女は運転ができないのか?
町までほんの1kmくらいだ
そう思い、海外で初めて運転をした。

ボロいマニュアル車でパワステも付いていない。
だが、別に問題はない。
ただの田舎道をほんの1kmくらい走るだけだ。

町に着いたはいいが、彼女は一人で帰れるのだろうか?
一人で帰れるか?と聞くと、平気だと言う。
じゃあなぜ俺に運転させたのだろうか?だが、そんなことは別にどうでもいいと思いなおし

ありがとう

と、お礼を言って食事に出かけた。
お気に入りの食事はもっとも無難なフライドライス。
なかなかアグレッシブな食事に挑戦できない。

今でこそ、大好きなタイ飯だが初めての旅では、お腹を壊すことを心配してフライドライスばかり食べていた。

町をブラつく。
手荷物を無くしてしまったので、ナイキのロゴが入った海パンとオークリーのロゴが入ったビーサンを買った。どうやらこの国には著作権と言う概念がないらしい。

海を見ながらビーチでタバコをふかしていると、地雷探知機みたいな物を装備したおっさんが地雷探しみたいなことをしている。まさか、こんなところに地雷は埋まっていないよななとど考えていると

アー ユー ジャパニーズ?

カタログを物を持ったねーちゃんが話しかけてきた。「あのおっさんは何してるんだ?」と聞くと旅行者たちが海で失くす貴金属を拾っているのだと教えてくれた。なるほど、砂金を取るよりも効率が良さそうだ。なかなか面白い仕事だなと感心していると、そのねーちゃんは本題に入ってきた。

ヘナタトゥー入れないか?

いや、と断るが、熱心に絵柄を見せてくる。暇つぶしに値段を聞いたらなんと800バーツだと言いやがる。完全にふっかけられているなと思って断っていたらいつのまにか、売り物がヘナタトゥーから大麻に変わっていた。ちなみに彼女の言い値は5000バーツ。この辺りをプラプラしているとこんな奴ばかり寄ってくる。

宿に戻るとトムとアメリカ人のじーさんがまったりとジョイントをまわしていた。
オン・ザ・ビーチに立つトムのバンガローはボロいがロケーションは抜群だ。

彼はカリフォルニア出身で、英語が妙に聞き取りやすかった。かっこいい指輪をしていたから、それいいねと言ったら

俺はアーミーだったのさ
これはアーミーのヘリコプターのパイロットの指輪だよと教えてくれた。

彼は30年もアーミーにいて、ベトナム戦争にも従軍したらしい。
とても穏やかで、のんびりとした雰囲気を持つ老人からは、戦争で戦っていたと言う過去が感じられない。

お前のペンダントはセントクリストファーだろ?

驚いた。
なんで、そんなこと知ってるんだ?

それは、カリフォルニアのサーファーがよくつけてるペンダントだよと、教えてくれた。
海を眺めながらゆっくりと日が暮れていく。

たわいもない会話
遠い国から来た者どうしが
この南の島で、出会い、話す、ほんのひと時の時間
こういうひと時に憧れていた。

夜は海辺のレストランで食事をとった。
潮風が心地よい
海の匂い
ゆったりと流れるボブの歌声
静かで、幻想的な世界だった。

なんでもないただの一日が、なぜかキラキラと輝いている。
南の島は、ゆったりとした幸せな気分に満ちている。

失われた楽園。
俺のロストパラダイス。

To Be Continued

あとがき

今、日記を読み返してみると、なんでもないただの日々がドラマチックに書かれている。過ごしている日々の熱量が圧倒的に違うのだ。東京での葛藤、初めての旅、開放感、そう言った気持ちが混じり合って、自分に酔いしれて、壮大なストーリーの中を旅している。アドレナリンやらドーパミンがドバドバと放出されていた。

実際は、ただ、旅行でサムイ島に来ているだけだと言うのに。

今、俺の本当の人生が始まったんだとばかりに感動していた。

どんなにすごい体験をするよりも、どんなにすごい場所にいくよりも重要なことは、どんだけすごいと感じられるかと言うことだ。大した冒険だろうと、大したことない冒険だろうと、それよりも、どれだけすごい冒険だったと感じられるかの方がはるかに重要だと、この日記を読み返して思った。

旅をしているとこんな感じの若者は沢山いる。
俺はそんな奴らを見ながら、フッ、若いなってちょっとだけ冷ややかな目で見ていたのだけれども

今、この日記を読み返すと、それはまさに昔の俺の事だった。
何なら俺の方がぶっ飛んじゃってる。

でも
どんだけその雰囲気に浸れるか?
どんだけのめり込めるのか?

人から何と言われようが、何と思われようが、最終的には人生なんて楽しんだ者勝ち。
旅なんて浸れるだけ浸った方が明らかにお得だ。

事実、今思うとなんでもないようなこの旅行が、俺の記憶の中で一番の大冒険だった。

それだけに2016年にサムイ島を訪れた時はショックだった。

俺のビーチを探し求める旅 | サムイ島

記憶の中で美化されすぎた楽園が見事に無くなっていた。

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セントクリストファーのペンダント
昔はもっと安かったような気がしたが

公開日: : 最終更新日:2018/11/16 タイ ヤングエイジ

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