映画ロード・オブ・ザ・リングのロケ地にもなった世界遺産『トンガリロ国立公園』
2016年5月14日
世界遺産ハンター的にはニュージーランド観光のメインともなる世界遺産『トンガリロ国立公園』。いくつかのハイキングコースがあるのだが俺たちは一番メインとなるトンガリロ・アルパイン・クロッシングと言う全長約20kmのコースを選択。
トンガリロ・アルパイン・クロッシングは、トンガリロ山とナウルホエ山の間を横断するルートで、入山する場所と下山する場所が違うのでゲストハウスから往復のバス予約が必要。このバスの料金がボッタクリでひとり35ドルもする、一泊ドミトリーで29ドルの宿代よりたかいじゃねーか・・・
バス代は高いが入山料とかそう言うのは特に掛からない。ツアーで行くことも出来るが一本道でどうせみんな同じルートなので個人で行っても迷う事は無さそうだった。ニュージーランドは、こう言う観光資源からお金を取らないのは流石だなと思う。
トンガリロ国立公園
1990、1993年、複合遺産に登録 / (vi)(vii)(viii)
東半球における環太平洋火山帯最南端の場所として自然遺産に登録され、マオリ族の聖地として文化遺産に登録されている。ルアペフ山、ナウルホエ山、トンガリロ山がマオリ族の聖地であり信仰対象となっている。なかでもトンガリロ山にあるエメラルド色の火山湖がみどころ。
映画『ロード・オブ・ザ・リングシリーズ』のモルドールのロケ地としても有名で、ナウルホエ山は「滅びの山」の撮影が行われたロケ地となっている。
トンガリロ・アルパイン・クロッシングは、約20km、大体7時間くらいの道のりで標高はせいぜい2000mくらい。ちょっと長いけれども一般の人たちが歩く、いわゆるハイキングコースだ。エチオピアのシミエン国立公園で4000m級の山々を歩き回った俺たちにとっては大した山じゃない。
しかし、ユリちゃんは体力に自信が無いとの事で、登山を断念。高低差もさほどないし、絶対大丈夫だよと俺は説得したのだがギリギリのところで踏ん切りが付かず、一旦、俺たちと別行動で旅を続け、オークランド辺りで再び合流する事になった。
天気はあいにくの曇空だったがニュージーランドの美しい大自然は、まさにロード・オブ・ザ・リングの世界だった。(映画は見た事無いけど・・・)
今回は登らなかったけれどもこのナウルホエ山がロード・オブ・ザ・リングで、最後に指輪を捨てに行くと言う滅びの山だ。
大した事無いと思っていたトンガリロ・アルパイン・クロッシングコースだが最初の山を登っている途中で異変に気がつく。あれ?なんか知らなけれども結構辛い。
そんなはずは無い。俺は4000m級の酸素の薄い山々を登ってきた男、こんなところでバテるはずが無い。
ナウルホエ山へ登る道とトンガリロ・アルパイン・クロッシングの分岐点。登山を始める前は余裕があったらナウルホエ山も登ってみたいななんて考えていたけれどもとんでもない、余裕なんてあるはずが無かった。
それでも強者はサクサクッとナウルホエ山に登頂して、更に早足でトンガリロ・アルパイン・クロッシングを駆け抜けバスの時間に間に合わせるのだと言う。どんだけ健脚なんだよ。
先ほどの分岐点を抜けると、登りは緩やかになって広大な盆地地帯が現れた。これでトンガリロ・アルパイン・クロッシングの山場を越えた事になる。まぁなかなか大変だったけど4000m級の山を渡り歩いた俺にとっちゃ大した事無かったな。
みんなで記念撮影をパシャリ。
しかし、真の試練はこのあと始まるのだった。
どんよりとした曇り空にきりがすごくて前が殆ど見えない。急な上り坂に強風で手はかじかみ、凍えそうだった。さっきまであんなに穏やかだったのに・・・
ただでさえ手が冷たいと言うのに急な上り坂なので鉄の鎖が常備されている。素手で鉄の鎖をつかむとマジで冷たい・・・
くそー
手袋を持ってくれば良かった。ちなみに手袋を装備していないのは俺だけだった。
極寒の中、なんとか急な斜面を登りきると遮る物が何も無い場所に出て、突風が吹き荒れていた。うぉ!こりゃすごい風だ。
カトーさんはテンションが上がっちゃって風すげーっ!とか言って楽しんでいたけど前方では、ゲストハウスで一緒だった日本人の女の子、ゆずちゃんが突風にあおられうずくまっている。ふと後ろを振り向くとマリちゃんも突風にあおられうずくまっている。
俺とカトーさんは男なのである程度、体重があるから何とかなるが女の子は体重が軽いから吹き飛ばされそうになっていた。
この何もさえぎる物の無い稜線で吹き飛ばされたら死んじゃうな・・・
俺は下手に山岳物の小説とか読んだりしていたので山の突風の恐ろしさは重々承知していた。高名な登山家の方達が何人も突風で命を落としている。もちろん、ここは2000m程度の山なので登山家の人たちと比べるのはどうかと思うが、吹き飛ばされてしまったら助ける事が出来ないと言う事は確かだろう。
俺はここまで登ってくるまでに結構バテていたのだけれども、こりゃいかんなと思ったら急にアドレナリンがドバドバと出てきてまりちゃんの手を引いてぐいぐいとこの突風地帯を突き進んで行った。
人間、アドレナリンが出てくると疲れなど吹っ飛んで、普段よりも力強く行動する事が出来るようになる。
極寒の中、霧に包まれ、視界は殆ど無く、強風が吹き荒れるこの山はまさにロード・オブ・ザ・リングの大冒険そのもの。マジで俺はトンガリロをなめていた。調子に乗ってごめんなさい!
とにかく早く、この危険地帯を抜けたかった。風が強過ぎて手がかじかんでいた。
かなり厳しい山道を抜けると急に視界が晴れて、風が無くなったと思うと遠くに色の違う三つの湖が見えてきた。
やった!抜けたぞ!
このトンガリロ最大の見所となっている湖は本当に美しく、しかも試練を乗り越えてすぐに見えるので嬉しさは倍増なんてもんじゃない。
しかもあれだけ曇っていた天気が、絶妙のタイミングで晴れはじめた。
まさに最高の絶景だ。
俺たちは嬉しくて山を駆け下りていった。
ヒャッホー!記念撮影だ!
ここまでが最大の難所で、最大の見所だったのは間違いないのだけれどもここからが長かった。実際、ここまでで半分も終わっていなかった。
このあともまた、若干の厳しい登りや霧に悩まされたがさっきに比べれば大した事は無かった。
厳しい道のりを抜けたあとの平地はありがたい。
トンガリロ・アルパイン・クロッシングは絶景だよね。さすがは人気ナンバーワンのコースだけある。しかも苦労と言うスパイスが効きまくってただでさえ美しい風景が余計に美しく感じる。
でも、まぁ一言いわせてもらうと長い。とにかく長い。
このコースの素晴らしいところは段々と景色が移り変わって行くところ。何にも無い岩山から湖、そして草が生えてきてと、高度が下がるにつれ植物が生息しはじめ、目に映る景色が変わって行く。なんとも素晴らしいコースだった。長いけど・・・
この頃から俺の膝は痛みかけていた。先ほど、アドレナリンに任せてガツガツと山登りをしたのと、その後、テンションが上がっちゃって山を駆け下りたのが原因だと思う。シミエン国立公園のトレッキングでは最深の注意を払って行動していたので膝は痛くならなかったが今回はついうっかり調子に乗ってしまったようだ。
アドレナリンってやつはドラッグみたいなもんで効いている時は無茶出来るが、アドレナリンが切れたあとは身体がぼろぼろになってしまう。
高原を下り終えると最後はジャングルのような森を抜ける事になる。トンガリロ・アルパイン・クロッシングの風景は本当に楽しませてくれる。でも、長い・・・
そして膝が痛い。
つーか、いいかげん終わってくれ
俺は、この頃には完全に足を引きずっていた。
山は決してなめちゃいけない。
わかっていたはずだけど、完全になめていた・・・
トンガリロ・アルパイン・クロッシングは絶景だし、めちゃくちゃ良かったけどマジで長かった。
そしてユリちゃんを連れてこなくてマジで良かった。
あんだけ余裕だよとか言っておいて俺がこのザマだからな。もし、ユリちゃんが来ていたら話が全然違うじゃねーか!って言われちゃうよ。
こうして約20kmもある、長い長いトンガリロ・アルパイン・クロッシングを終えたのであった。
そして、シミエン国立公園の4000m級の山々を乗り越えた事によってついた俺の自信は粉々にくだけ散っていた。
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